一方的に労働契約を打ち切り!不当解雇とその解決方法とは

2020年6月19日17,783 view

不当解雇

近年、過重労働や残業代の未払い等、様々な労働問題が議論されていますが、その内の一つが「不当解雇」です。不当解雇された場合、解雇の撤回や賠償請求等の対処が可能です。しかしその定義や該当するケース等を理解していなければ、不当性を主張することはできません。そこで今回は、不当解雇について法的観点から解説します。

不当解雇とは

解雇

「解雇」と聞くとネガティブなイメージを持つ人も多いですが、全ての解雇が悪、というわけではありません。企業が存続・成長する上で必要な解雇だってあるのです。しかしながら、不当な解雇が蔓延っているのも事実です。

一度労働契約を結んだら簡単には解雇できない

「解雇」とは会社が一方的に従業員との労働契約を打ち切ることです。しかし従業員にしてみれば労働の対価として受け取る賃金で生計を立てているわけですから、その基盤を突如失えば、路頭に迷うことになり兼ねません。そこで日本では「解雇権濫用の法理」と呼ばれる考え方が確立されています。

不当解雇と密接な関係にある「解雇権濫用の法理」とは

解雇権濫用の法理とは「合理的かつ論理的な理由が存在しなければ解雇できない」というものです。この考え方はある判例がきっかけとなって確立されました。

それは、昭和53年、“会社に勤めている従業員は必ず、その会社の労働組合に加入しなければならず、脱退及び除名された従業員は解雇”とする「ユニオンショップ協定」と呼ばれる、労使間の協定を理由とした解雇の妥当性が争われた日本食塩製造事件の裁判です。

判決は「使用者の解雇権行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と是認することができない場合には、権利の濫用として無効になる。」としたものでした。この判決以降、解雇権濫用の法理の考え方が普及し現在に至っています。なお、ユニオンショップ協定は現在でも多くの企業が採用しているので労働者は注意が必要です。

解雇が認められるケースは?

「客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と是認」できる場合は解雇権の行使が有効であるとは、具体的にはどういったケースなのでしょうか。

人員整理による解雇

企業は経営状態の悪化等を理由に整理解雇(リストラ)を行う場合があります。法律上でも整理解雇による労働契約の解消は認められていますが、整理解雇を行うには「経営上の必要性があること」「倒産を回避する為に他の手段を尽くしたこと」「整理解雇対象者の選定が、合理的かつ公平に行われること」「労働組合または社員代表者との協議を尽くしたこと」の4要件を全て満たしている必要があります。

経歴詐称を理由とした解雇

労働者が重大な経歴詐称をしていた場合も、解雇が認められることがあります。しかしこの場合も「詐称が故意であること」「詐称した経歴が採用の決め手となったこと」「就業規則に経歴詐称が解雇事由になるとの記載があること」「詐称の程度が甚だしいこと」の条件を満たしている必要があります。

就業規則に違反した場合

労働契約を結ぶ際には雇用形態に関係なく、使用者側が定めた就業規則に基づいて労働することの合意が労使間で成立することになりますが、この就業規則には通常どの様な場合に解雇するか(解雇事由)、退職に関する事項が含まれています。そして労働者がそれに該当する行動をした場合、解雇が認められることがあります。もっとも、前提として就業規則に記載された内容が労働基準法に違反していないことが求められます。

天災事変その他やむを得ない事情による解雇

天災事変その他やむを得ない事情によって事業の継続が不可能となった場合の解雇も認められます。天災事変とは地震や雷、洪水等を指しますが、このうち特に日本で見られるのは地震によって社屋が倒壊したり機材が破損することによって事業が破たんするケースです。

不当解雇に該当するケースは

近年では残業代の未払いや過重労働、中間搾取等様々な労働問題が取り沙汰されていますが不当解雇もその内の一つです。では違法な解雇に該当するのはどういったケースなのでしょうか。

軽微な勤怠不良やスキル不足を理由とする解雇

勤務態度不良を理由とした解雇が認められるか否かは、勤怠不良の程度や回数、改善の見込み、会社への影響の度合い等の基準をもって判断されます。スキル不足に関しても同様でその程度が違法性の判断基準になります。労働契約の目的を果たすことができない程に著しいスキル不足が労働者に認められなければならず、少々仕事の飲み込みが悪いといった程度では解雇できないのです。

退職強要による解雇

使用者が労働者の意に反して労働契約の解消を迫る行為を退職強要と言い、違法になります。民法709条によって不法とされており、損害賠償の対象になります。また場合によっては刑事上の「脅迫罪」に該当します。労働者に退職を進める「退職勧奨」に関しては違法ではありませんが、繰り返し執拗に行ったり、退職せざるを得ない状況に追い込む等、実質的に退職を強要したと見なされる場合は不法となり、解雇は認められません。

突然の解雇

通常、会社が労働者を解雇する時には30日前までに解雇の通知を行うか、行わない場合は解雇予告手当の支払いが必要とされています。テレビドラマ等で「今日限りでクビだ」等と突如告げられるシーンをしばしば見かけますが、あれは本来ならば違法であり、認められないのです。

解雇制限をクリアにしない場合は不当解雇

また日本には労働者を保護する法律があり解雇に制限がかけられています。その制限をクリアにしない解雇も違法で、認められません。ここでは労働者を不当解雇から守る解雇制限を中心に解説していきます

不当解雇から労働者を守る様々な法律

労働者を保護してくれる法律としてよく知られているのが「労働基準法」ですが、実はそれ以外にも労働者を守る法律が複数存在します。

労働基準法による解雇制限

国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇や、基準監督署等、監督機関への申告を理由としたもの、及び業務上の怪我等による療養のために休業する期間及びその後30日の解雇は労働基準法上の解雇制限に該当し、認められません。

男女雇用機会均等法、育児介護休業法上の解雇制限

労働者条件等に関して男女の取扱いを差別することの禁止を定めた男女雇用機会均等法では女性であることや婚姻、妊娠、出産、産前産後の休業取得・請求、及び妊娠・出産に起因する能力低下、労働不能を理由とした解雇に制限を定めています。また育児介護休業法においても育児、介護休業の申出及び休業したことによる解雇は制限されています。

正当な行為をしたが会社に不利益を与えた場合の解雇

また、一般的に労使間では使用者側の立場が強く、労働者が盾突くことは許されない空気があります。そうした中では労働者は解雇を恐れて、それが会社に不利益が及ぼすものであれば、正当な行為もはばかられてしまうことになり兼ねません。そこでこれを防ぐのための条文が複数の法律に規定されています。

「公益通報者保護法」

事業者内部からの通報、所謂内部告発をきっかけに通報を行った労働者は、事業者側から解雇や不当な人事異動等、理不尽な取り扱いを受けることがあります。そこで法令違反を通報した労働者をそうした不利益から守るため、「公益通報者保護法」と呼ばれる法律が平成18年4月に施行されたのです。この法律において通報の対象となる法律は様々な分野の法律460本に及びます(平成29年4月現在)。

労働基準法や労働組合法では個別にも規定されている

その中に労働基準法や労働組合法、労働関係調整法等が含まれますが、労働基準法や労働組合法には個別にも同様の規定がされています。労働基準法第104条には監督機関への申告を理由とした解雇は認められないとの定めがあり、労働組合法においても第7条で労働者が労働組合員であることや労働組合に加入、及び労働組合を結成しようとしたこと等を理由とした解雇を禁止しており、正当な行動であっても会社に不利益を与えたからと言って解雇することに制限を設けています。

不当解雇に関して知っておきたいこと

不当に解雇された場合、解雇の撤回や賠償請求等の対処が可能です。しかし近年では事業者が意図的に労働者に保護された権利を知らせない“ブラックな”企業も少なくありません。そうした状況で不当解雇に立ち向かうために知っておきたいことを解説します。

解雇条件に関しての留意事項

ここまで解説してきた内容と照らし合わせれば、不当な解雇なのかそうでないのかの判断ができると思います。しかし、イレギュラーな部分もあるので注意しましょう。

労働形態等により多少解雇の条件が異なるケース

前述の通り、解雇するには通常解雇予告や解雇予告手当といった解雇手続きが必要です。しかし契約形態によって解雇の条件が異なり、場合によってはそれらが不要とされることがあります。

試用期間中の場合 14日以内なら解雇手続き不要。それ以降は必要。
短期契約労働者の場合 2カ月以内なら不要、それを超えれば必要。
季節的業務の場合 4か月以内の一定期間内で労働する者は4カ月以内なら不要、4カ月を超えれば必要。

なお、整理解雇の際の人選に関してもパートタイマー(アルバイト)、嘱託社員、期間工、常用的契約社員、正社員の順でなされるべきとされています。

不当解雇にあった場合の対処法

不当解雇に対しては解雇の撤回や、不法行為における賠償請求等の対抗措置をとれます。一人で悩まずに、まずは相談し行動を起こしましょう。ここでは事態の切迫度合いに応じて適した対処法を紹介します。

労働組合や専門機関へ相談

まず初めに相談すべきは労働組合でしょう。労働組合は労働環境の向上や労働者の基本的人権の保護等、労働者の共通の目標達成を目指す労働者の連帯組織ですが、労働者の組織であるため、強力な権限は持ちません。
従って解決に直結する可能性は低く、切迫度合いの低い人に向いていると言えます。

また労働基準監督署も労働問題を取り扱いますが、国の機関であるため、労働基準法に明記された事柄以外には口出ししないのが通常です。よって解雇の妥当性の相談についても業務範囲外ありこの場合も解決に期待はできないでしょう。労働基準監督署への相談を経たら、その上位組織に当たる労働局に「あっせん」を求めると良いでしょう。しかしあっせんはあくまでも会社との話し合いの延長です。

話合いで解決できそうな場合には有益ですが、うまくいかない場合も多いと言えます。

弁護士に相談

近年、労働問題が盛んに論じられていることからこの手の問題に特化した法律事務所も増加傾向にあります。弁護士に相談することで解決に導ける可能性は高くなりますから、解雇された経緯やどこがどう不当なのか等の状況をきちんと伝えられるように事前に整理しておくことをお勧めします。

法的手段をとる

会社が要求に応じない場合は法的手段を講じます。労働審判等の裁判外紛争解決手続き(ADR)や訴訟手続きといった法的手段で解雇の撤回や賠償金の請求をすることになりますが事案によって目指すところは違うので、最適な手段を選択して下さい。

不当解雇さらないために、労働者としての権利を自覚することが大事

近年では、意図的に労働者に保護された権利を知らせない“ブラックな”企業も少なくありません。不当解雇に限らず理不尽な扱いをそうした中で受けないためには、日頃から労働者としての権利を自覚し、いざとなったときに主張できるようにしておくことが大切です。

不当な解雇をされそうになるなど、就労について問題が生じたら、労働問題に強い弁護士に相談することもおすすめです。自分だけでは気づけなかった、プロならではの意見を聞くことで解決の道が開けるでしょう。

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