残業代請求で会社が倒産しても、未払い分は回収できる?

2020年6月19日11,411 view

倒産

残業代請求をする権利を持っていても会社がお金を持っていない時や会社が倒産してしまった時はもうあきらめるしかないのでしょうか。そんなことはありません。実は、残業代を支払えずに会社が倒産してしまった労働者を救済する制度があるので、あきらめずに弁護士と相談してみましょう。

弁護士に相談したら、未払い残業代が請求できた
残業代を請求することができるのはどんな人?
1日8時間以上、週40時間以上働いている人
次の項目に当てはまる人は、すぐに弁護士に相談
  • サービス残業・休日出勤が多い
  • 年俸制・歩合制だから、残業代がない
  • 管理職だから残業代が出ない
  • 前職で残業していたが、残業代が出なかった
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会社が倒産しても残業代請求は可能です

残業代請求で会社が倒産しても未払い分は回収できます。ただし、制度上満額の残業代請求ができるわけではありません。

本来、会社は以下のような形で倒産すると債務の支払い義務がほぼなくなります。※

  • 破産手続き開始の決定(自己破産と同じ)
  • 特別清算手続き開始の命令(破産手続きに似ているが債権者の同意が必要。株式会社のみ)
  • 再生手続き開始の決定(会社の中身を変えない再生)
  • 更生手続き開始の決定(会社の中身を一新する可能性のある)

中小企業の場合は社長などが連帯保証人となっていますが、連帯保証人が債務整理をすれば同じことです。

このように会社が債務を支払えない以上、倒産後に残業代請求すべき相手は会社ではなくなります。倒産後は独立行政法人労働者健康安全機構が請求先になります。

※本当は持っている財産の範囲で残業代支払がされるのですが倒産処理が確定するまでの時間が長く労働者の生活が脅かされます。しかも、弁済の手続きが非常に面倒です。

未払い賃金を立て替えてくれる組織をご存知ですか?

独立行政法人労働者健康安全機構とは、労働者の安全を守るために幅広い活動を行っている組織で、労働者健康安全機構の行う事業の中に未払い賃金立替払いがあります。

つまり、会社が倒産して残業代請求ができない時は労働者安全機構に請求すれば未払い賃金のうち一定の割合が支払ってもらえます。割増賃金や各種手当も立て替えてもらえる対象です。請求をするためには少し難しい書類作成が必要です。

立て替えとは要するに債権を買うこと

未払い賃金の建て替えは全額を行ってもらえません。多くても残業代の8割が限度となります。これは立替払いという性質上仕方のないことです。

立替払いとは残業代を代わりに払ってくれるだけでなく「労働者に代わって未払い残業代を会社に請求する」ことを意味します。

要するに残業代を請求する権利をそれより安いお金で労働者から買っているわけです。だから、絶対に満額の立替払いはありません。

残業代の請求は事実上の倒産でも行えます

未払い賃金立替払いは会社が倒産した時に使うのですが、会社が倒産していないけれど経営がかなり傾いている場合や、もはや倒産が時間の問題であるときはどうなるのでしょうか。場合によっては倒産の手続きをしないまま会社がつぶれてしまうことさえあります。

そこで、労働者健康安全機構への残業代請求は法律上の倒産と事実上の倒産についてどちらも認めています。

法律上の倒産とは

法律上の倒産は破産、特別清算、民事再生、会社更生の手続きが開始された時点で認められます。法律上の手続きを踏んでいることが特徴です。

法律上の倒産は必ず社員に告知する義務があります。

事実上の倒産は労働基準監督署に認めてもらう

事実上の倒産とは事業活動がうまくいかず「賃金を払えなくなっている」状態を指します。もっと詳しく言えば事業活動が停止していることや再開する見込みがないことが条件となります。

事実上の倒産が認められるためには労働基準監督署に申請をし、認定してもらう必要があります。実際のところは労働基準監督署次第なので早めの行動が大切です。

事実上の倒産は中小企業にのみ認められる概念です

事実上の倒産は中小企業にのみ適用されます。この制度における中小企業はこのような規模になります。

  • 出資総額1億円以下で労働者100人以下の卸売業
  • 出資総額5000万円以下で労働者100人以下のサービス業
  • 出資総額5000万円以下で労働者50人以下の小売業
  • それ以外の企業は出資総額3億円以下で労働者300人以下が条件

会社が倒産した時の残業代請求の注意点

会社が倒産した時の残業代請求は、満額もらうことができません。しかも対象となる労働者や請求期間などにも大きな注意点があります。限りある残業代を失わないためにしっかり学びましょう。

残業代は退職日6か月前から支払われるものに限る

退職日の6か月前から退職日まで支払われるはずだった未払い賃金が請求の対象になります。つまり残業代についても同様です。毎月1回以上支払われる賃金に限られるので賞与は立て替えてもらえません。

退職までの6か月分と勘違いしないよう注意してください。

例えば給与が毎月25日払いで、7月24日に退職したとします。すると、立て替えの対象になるのは1月25日に支払われた給与から6月25日に支払われた給与までです。

残業代は月によって変動するため、計算の基本となるはじめと終わりの月を間違えやすいです。

年俸制も未払い賃金立替制度が使えます

月に1回以上支払われる給与が対象ですが、年俸制でも未払い賃金立替制度が使えます。なぜなら、年俸制でも労働基準法によって月払いが義務付けられているからです。
残業代も同様に月ごとに支払われる決まりです。あきらめずに請求しましょう。

残業代の請求には年齢に応じた限度額がある

未払い賃金立替制度を使った場合、総額の80%が最高額になります。これは年齢ごとの限度額が理由です。45歳以上は370万円、30歳から44歳までは220万円、30歳未満は110万円となります。もちろん、限度額を超えた場合は限度額×80%が未払い賃金の建て替え限度となります。

会社の倒産が近いと残業代どころか基本給さえごまかされていることがあり、残業代請求が目的であっても限度額を無視できません。

対象となるの労働者に制限があります

未払い賃金立替制度が使える労働者は法律上の倒産があった日、あるいは事実上の破産が認定された日の6か月以前、あるいは1年半以後に退職した労働者に限られます。

この制限から1日でもずれてしまった人は未払い賃金の取り戻しが困難になります。

未払い賃金の請求は倒産の翌日から2年以内

未払い賃金の立替払いを労働者健康安全機構に請求できるのは法律上の倒産や事実上の倒産があった日の翌日から2年以内です。2年という制限は消滅時効と同じなので覚えやすいですね。

会社が倒産した場合の残業代請求方法

会社が倒産した時の残業代請求方法を簡単に説明します。いずれにせよ自分が未払い賃金立て替え請求制度を使えることの確認が最優先となります。

共通する手順は未払い賃金の立替払い請求書を労働基準監督署や労働者健康安全機構のホームページから手に入れること、未払い賃金の計算をすることです。

一方、必要事項の証明は法律上の倒産と事実上の倒産で異なります

残業代の計算については一人では難しいので労働法に精通した弁護士に勤怠記録と雇用契約書を渡して代行してもらうのがおすすめです。

法律上の倒産だった場合の必要事項証明

法律上の倒産による未払い賃金立替制度の利用であれば、残業代について証明者に認めてもらう必要があります。証明者は倒産の種類によって異なりますが、財産を管理する役割にある人であることは共通です。

  • 破産の場合は破産管財人
  • 特別清算の場合は清算人
  • 民事再生の場合は再生債権者
  • 会社更生の場合は管財人

残業代の事実を認めてもらえなかった場合は労働基準監督署に申請して証明を得られなかったことを確認してもらいます。とりあえずはそれで申請できます。

事実上の倒産だった場合の必要事項証明

事実上の倒産であれば労働基準監督署に必要事項証明の部分を確認してもらいます。所定の手続きが終われば確認通知書が交付されるので、それを含めて必要書類を労働者健康安全機構に提出して手続き完了です。

立替払い金の支払いと記名捺印の重要性

立替払い金は指定した口座に振り込まれますが、立替払い請求書の記名捺印を忘れた場合は源泉所得税として20.44%が徴収されます。これは非常に痛手です。

退職所得控除が適用されるメリットを台無しにしないよう気を付けてください。

会社が倒産した時の残業代請求は弁護士に相談を

会社が倒産しても残業代を請求できるというのは労働者にとってうれしいことです。ただし、未払い賃金立替制度は手続きの内容が複雑でかつ条件がシビアなので自己判断で動くよりも弁護士に相談してから手続したほうが効率的です。

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