パワハラとはどういうもの?パワハラの実態と対処法

2020年6月19日176,475 view

パワハラ

ある程度の規模の集団や組織の中では必ずいじめは発生します。そしてそれは会社でもまた然りです。今回紹介するパワハラはそんな職場いじめとも言える、主に立場が下の者に対して行う嫌がらせですが泣き寝入りするケースが多いのが実態です。しかし悪質なものになると精神疾患を発症する場合もあり、看過できない問題です。

パワハラとは

パワハラ

学校や趣味サークル、“ママ友達”のグループ等、ある程度の規模の集団や組織が形成されればそこには嫌がらせが必ずと言っていい程発生します。そして近年取り沙汰されている通り、職場における嫌がらせ行為もあります。その一つがパワハラです。

パワハラとは

パワハラとは「パワー・ハラスメント」の略で、主に職場の地位関係において優位にある者が劣位にある従業員に対して精神的・身体的苦痛を与える行為で、問題視されています。

パワハラの定義は

この様な職場いじめ自体は昔から一定数はありましたが、長い間それらは社内のこととして黙認、若しくは黙殺されてきたのです。しかしこの4~5年の間に、そうした行為がパワハラとして位置付けられることによって顕在化したと言えます。パワハラの定義に関して厚生労働省は「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」としています。

パワハラは由々しき問題

近年パワハラによって離職を余儀なくされるケースが相次いでいます。しかし問題はそれだけでなく、パワハラを受けたことによってうつ病になったり、ひどい場合には強いストレスから時間が経ってもイライラや睡眠障害、パニック等の症状がでる“PTSD(心的外傷後ストレス障害)”を発症し、その後長く苦しみ続けることもあるのです。更に表になっているのは氷山の一角に過ぎず、程度の差こそあれど蔓延しているのが実態です。

パワハラの特徴と背景

職場での嫌がらせによる自殺の事例等パワハラ関連のニュースがしばしば報道される昨今ですが、パワハラはなぜ起こるのでしょうか。ここではパワハラの特徴や背景等について、セクハラとの違いについても触れながら解説します。

何故パワハラが行われるのか

パワハラが発生する原因としては大きく2つが挙げられます。まず一つ目は「ストレス」です。企業を取り巻く人員不足や経営難からくる苛立ちが大声で怒鳴る、或いはうだつの上がらない社員に対して嫌味を言うといった行為に繋がり、パワハラに発展するのです。次に「組織の体質」も挙げられます。上層部がトップダウンで部下に指示を出す“体育会系”の企業風土が定着すると、部下は上司に逆らうことができなくなり、無茶な要求をされることになるのです。

パワハラは業務上必要な事柄に起因する

セクハラが体を触る、性的な発言や要求をする等、“業務上不要な”行為に起因する性格のハラスメントであるのに対しパワハラは基本的に指導や指示、命令等の “業務上必要な行為が適切な範囲を超える”ことで起こる性格のものである点が大きく異なります。そしてだからこそ加害者側は教育のつもりで悪意なく行っているケースも多く、また従業員も業務不履行で解雇されること恐れ、歯向かわずに我慢し続けることになるのです。

パワハラの実態

パワハラ

一口にパワハラと言ってもその手口は実に様々です。自分が受けている行為がパワハラであると主張するには、どの様な行為がパワハラに当たるか知ることが大切です。

パワハラの6形態

パワハラにも様々なケースがありますが厚生労働省はパワハラを「身体的・精神的攻撃」や「人間関係の切り離し」、「過大な要求・過小な要求」「個の侵害」の6類型に整理しています。

身体的・精神的攻撃

まず、最もパワハラと分かり易いのが身体的・精神的な嫌がらせです。例えば殴る蹴るの暴力は勿論のこと、罵詈雑言を浴びせたり、「会社に居ても意味がない」「皆が迷惑している」、「醜い」等人格を否定する様な言葉を発するパターンです。

人間関係の切り離し

人間関係の切り離しは仲間外れや無視等するパターンです。例えば必要書類を一人だけ配布されない、或いは一人だけ別室に席を離される、忘年会や送別会に故意に呼ばれない等所謂“ハブり”や、すぐ傍にいるのにメールで連絡される等不必要に疎外されるものです。

過大な要求・過小な要求

過大な要求は明らかに遂行不可能な量・質の業務を押し付けるパターンです。例えばとても一日で終えることができない程の量の書類作成を命じられ、徹夜を強いられたり完了しなければ叱責される等が挙げられます。このタイプのパワハラは概して、すぐに辞めない正社員に対して行われる傾向にあると言えます。有期雇用契約者に対してこの手のパワハラを行っても辞職されればそれまでですが、正社員は生活の為に収入源を絶やすことはできないため、ターゲットにされやすいと考えられます。

一方、過小な要求とは、例えば従業員の能力に対して明らかに程度の低い業務しか任されない、或いは業務を何一つ与えられない等です。過小な要求しかされないと、社会は自尊心を失っていきます。

個の侵害

個の侵害とはプライベートな領域に過度に立ち入ることです。他人に侵されたくない領域は多くの人が持つものですが、そこに配慮なく踏み込まれることによって気分を害することがハラスメントとなる訳です。尚、女性に対して個の侵害を行うとセクハラになるケースがあります。

パワハラの違法性

こうした定義付けがされても、パワハラの違法性の判断基準を一律に設けることは不可能です。それは個人によって受け止め方や価値観が異なり、同じ行為を受けてもダメージが違う為です。しかし社会的に見て著しく相当性を欠いた場合、法的責任が発生します。

名誉棄損罪・侮辱罪

例えば第三者の前で特定個人に向けて誹謗・中傷したりインターネット上に名誉を傷つける内容を書き込んだ場合等は名誉棄損罪(刑法230条)にあたります。また「バカ」「愚図」等とけなしたり、差別的発言をしたケースでは侮辱損罪(刑法231条)に該当します。

暴行罪・傷害罪

さらに、パワハラによって暴行を受けケガを負わされたケースでは暴行罪(刑法208条)や傷害罪(刑法204条)に該当します。またパワハラによってうつ病等の精神疾患にかかった場合も傷害罪を問えることがあります。

脅迫罪・強要罪

「どうなっても知らないぞ」「殴るぞ」等の脅迫があった場合は脅迫罪(刑法222条)に、土下座する様に強いた場合等は強要罪(刑法223条)になります。某学習塾フランチャイズの役員が新入社員に「殺すぞ」等の暴言を吐き問題になったことがありますが、この事例は脅迫的に該当する可能性はあります。

パワハラに関して知っておくべき点

パワハラ

近年のパワハラの増加から、パワハラ防止の講習会が開かれたり、パワハラ禁止が社内規定に盛り込まれたり自治体から対策冊子が発行される等、企業内外でパワハラ防止の動きは広がっていますが、今一つ効果を示さず被害が後を絶たないのが現状です。パワハラを減らす為には被害者が毅然とした対応をとると共に加害者もそのリスクを自覚することが大切です。

パワハラによるダメージは被害者にとどまらない

職場におけるいじめや嫌がらせと言ったパワハラは、被害者自身の身体的・精神的ダメージをもたらすにとどまらず、職場環境全体、延いては企業そのものへの悪影響も起こし得ると言えるのです。

周囲への影響

パワハラが行われているのを目撃したり伝聞した周囲の従業員は、いつ自分がターゲットにされるか分からない恐怖や、被害者に対して寄り添うことができない自分に対する責めの感情を持ち職場のモチベーションは下がります。またパワハラに対して敵切な措置を講じない会社に対する不信感も募ると言えるでしょう。

会社への影響

パワハラの存在は会社経営にも悪影響を及ぼし得ます。ひとつは生産性の低下が挙げられます。パワハラを恐れる余り、従業員の仕事がはかどらなくなることがあるのです。更に、離職者の増加も考えられます。被害者はもちろん、周囲の従業員がパワハラが行われる会社を見限り、もしくはパワハラに遭いたくないため、退職することがあります。また、パワハラの実態が明るみになり企業名が公表されれば企業イメージは大きく下がり、延いては経営難に陥る可能性もあります。

パワハラの対処法

パワハラを受けても全く苦にならない、あるいはそもそも会社は親交の場ではない、と割り切れる人もいるでしょう。しかしそんな人は極少数ですし、何より業務にも支障をきたします。ではパワハラに遭った場合、どの様な対処法をとるべきなのでしょうか。

証拠を集める

まず初めにパワハラの事実を立証する確たる証拠を集めましょう。例えば暴言や暴行のパワハラを立証するものとして最も有効なのは音声データです。メモや第三者の証言、メール等も無いよりはマシですが、決定的な証拠にはなり得ません。メールでは文面のみなので証拠としては弱いですし、メモも被害者側がねつ造したと主張される恐れがあるためです。同様に、怪我をした際の通院履歴や診断書も単体ではパワハラとの因果関係を立証することは難しく決定打にはならないでしょう。従って、ボイスレコーダー等でパワハラの現場の録音をしたものが最も効力のある証拠となると言えます。

社外の機関に相談する

パワハラの事実を打ち明けるにしても、社内の上司や社長相手では解決に至るのは難しいでしょう。企業内の人間は隠蔽こそせよ、従業員の責任を追及する様なマネを進んですることは考えにくいですし、パワハラの加害者に筒抜けになり、かえって嫌がらせを助長させる結果となることも十分に考えられるためです。

近年では社内にパワハラ相談窓口が設けられている場合もありますが、同様の理由でこれもオススメできません。従って、社外の専門機関や専門家に相談すると良いでしょう。例えば労働基準監督署や弁護士、社労士等です。更に最近ではパワハラを労災認定する判決も出ており、パワハラ対策の機関やwebサイトも多く見られます。

例えば厚労省が運営しているサイトに「こころの耳」があります。当サイトはハラスメントや心の健康を取り扱ったサイトで、メールや電話での相談を受け付けているので、誰かに話を聞いて欲しいだけなら利用することで気が軽くなるかもしれません。他にも、専門相談機関や相談窓口の連絡先が悩み別に分かり易く紹介されています。被害が深刻で思い詰めているなら「こころの健康相談統一ダイヤル」や、「いきる・ささえる相談窓口」に、法的手段を検討している場合は「総合労働相談コーナー」に連絡すると良いでしょう。

パワハラは一人で抱え込まないことが大切

確かに違法なパワハラは許されざる行為ですが、パワハラの全て法に触れるわけではありません。少し注意を受けただけでパワハラだと騒ぎ立てるのは賢明ではありません。理不尽ですが、実際にパワハラの違法性を訴えるにはそれ相応の覚悟が必要です。しかしどうしても耐えられない様な場合は、思い詰めず、相談だけでもする等早めに策を打つことが大切です。身の周りで解決できない場合は、労働問題に強い弁護士に相談することも大切です。

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